ブラームス ピアノソナタ一覧
ブラームスが残したピアノソナタは3曲のみ、1852~1853年に書かれた作品で20歳前後の青年期に作曲されています。
情熱的でエネルギッシュ、堂々と風格を持った主題が目立ちますが、合間には優雅で温もりある表現が見られ、長大な楽曲の中で鮮やかなコントラストを生み出しています。一部の楽章には、ブラームスが生前好んだ詩の一節が譜面に添えられており、歌詞に込められた世界観が曲の中に如実に表現されています。
曲名 | 調性 | 作品番号 | 難易度 |
---|---|---|---|
ピアノソナタ 第1番 | ハ長調 | Op.1 | 8(上級) |
ピアノソナタ 第2番 | 嬰ヘ短調 | Op.2 | 8(上級) |
ピアノソナタ 第3番 | ヘ短調 | Op.5 | 9(上級) |
※1:難易度は「G.Henle」の評価を参考にしています。
※2:上記一覧表の調性は、第1楽章の調性を記載しています。
ブラームス ピアノソナタの難易度・解説
ブラームスのピアノソナタの難易度は非常に高く、すべての曲が「上級」の演奏レベルに設定されています。
ピアノソナタ第1番、第2番は「8(上級)」、ピアノソナタ第3番は「9(上級)」の難易度に分類されています。
ピアノソナタ 第1番 Op.1
- 第1楽章:和声的で力強い第1主題と、か細く憂いを帯びた第2主題が特徴的、展開部は第2主題をカノンの形式で穏やかに始まり、再現部は短縮した第1主題で勇壮に曲を閉じます。冒頭のリズムがベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」に近似している点は多くの評論家に指摘されています。
- 第2楽章:冒頭蒼然とした空気で切ない旋律が奏でられます。この旋律には次の歌詞が添えられています⇒「ひそやかに月はのぼる、青い小さな花(月)、しろがねの小雲を縫いつつ天に上る、青い青い小さな花、ばらは谷間に 乙女は広間に おお世に美しきばらよ」、構成はこの旋律を基にした3つの変奏で成り立ち、後半にかけて徐々に明るさを増し、終局はゆっくりと静かな歩みで曲を閉じます。
- 第3楽章:力強くエネルギッシュな主題、定期的に挟まれる和音の連続音型が精力的で前向きな曲想を一層強めます。中間部の揺れ動く音色は甘美でありながら熱い情熱を感じさせます。
- 第4楽章:9/8拍子のリズムで、活気に満ちた華やかな主題が奏でられます。後に現れる第1副主題は厚みある和音による穏やかな曲調、第2副主題は優雅でありながらほのかな哀愁を秘めています。最後は主題を元にテンポを上げ最高潮を迎え華々しく曲を閉じます。
作曲年 | 1852年~1853年 |
---|---|
調性 | ハ長調(第1楽章) ハ短調(第2楽章) ホ短調(第3楽章) ハ長調(第4楽章) |
拍子 | 4/4拍子(第1楽章) 2/4拍子(第2楽章) 6/8拍子(第3楽章) 9/8拍子(第4楽章) |
難易度 | 8(上級) |
ピアノソナタ 第2番 Op.2
- 第1楽章:冒頭には悲劇的な情感を込めた強烈な主題が置かれます。この激情はpp(ピアニッシモ)の指示でひととき鎮静化しますが、16分音符の音型と共に高潮し激情的な第2主題に繋がれます。展開部は2つの主題を巧みに配置し、カノンで書かれた第1主題が添えられます。
- 第2楽章:静寂の森に迷い込んだような霊妙な雰囲気が漂います。不安げな足取りの主題から始まり、後に3つの変奏が添えられます。即興的な要素が強いですが、和音の響きを充実させ、連符と強弱記号を活用しながら大胆な抑揚を見せます。
- 第3楽章:活発で動的な動きを見せるスケルツォは短い小節で打ち切られ、慎み深いトリオに切り替わります。哀感を秘めた静かな旋律は徐々に高揚し、訴えかけるような和音で奏されます。再現部では冒頭のスケルツォにトリラーの動きが添えられます。
- 第4楽章:優雅に奏でられる序奏は、小節が進むにつれ徐々に風格を漂わせます。ここで扱われる旋律は後の主題、経過部、結尾部の各場面で変形して出現します。ソナタの中でも最も長大なこの第4楽章は、幾度と情熱的な抑揚を見せながら進行し、最後は流麗なパッセージを経て華麗に曲を締めくくります。
作曲年 | 1852年 |
---|---|
調性 | 嬰ヘ短調(第1楽章) ロ短調(第2楽章) ロ短調(第3楽章) イ長調(第4楽章) |
拍子 | 3/4拍子(第1楽章) 2/4拍子(第2楽章) 6/8拍子(第3楽章) 4/4拍子(第4楽章) |
難易度 | 8(上級) |
ピアノソナタ 第3番 Op.5
- 第1楽章:圧倒するような爆発的な音色から始まり、風格ある第1主題が奏でられます。後に連なる第2主題は抒情的でありながらも奥底に熱い情熱を秘めたもの、第1楽章はこれら2つの主題が転調しながら雄大な世界を描きます。第1主題を主軸とした展開部と短縮した再現部を経て、最後には小規模なコーダで曲を閉じます。
- 第2楽章:「A-B-A-C-コーダ」のロンド形式で進行、この楽章にはシュテルナウの詩である「若き恋」のメッセージが込められています。詩の内容は「たそがれ迫り 月影は輝く、そこに二つの心 愛にて結ばれて、互い寄り添い 抱き合う。」という恋の物語を描いたもの。ロマンティックな和声が特徴的、Bで現れる左右の音色の交錯は愛の語らいを連想させます。
- 第3楽章:3部形式、嵐のような激しさを持ち悪魔的な表情を見せる主部と、ゆったりとコラール風な旋律を奏でる中間部が特徴。
- 第4楽章:「回顧」という表題が添えられた短い楽章、第2楽章の主題で表現された愛の形はこの楽章で破局を迎えます。左手の3連符が不気味に響く中、沈鬱で感傷的な旋律が奏でられます。
- 第5楽章:「A-B-A-C-A-コーダ」のロンド形式で進行、舞曲風の雰囲気を醸し出すAで始まり、Bでは16分音符の伴奏に切り替わり幸福感に満ちた旋律が奏られます。Cは和音でコラール風な歌声を響かせ、最後はカノンのコーダで壮大なソナタを終結に導きます。
作曲年 | 1853年 |
---|---|
調性 | ヘ短調(第1楽章) 変イ長調(第2楽章) ヘ短調(第3楽章) 変ロ短調(第4楽章) ヘ短調(第5楽章) |
拍子 | 3/4拍子(第1楽章) 2/4拍子(第2楽章) 3/4拍子(第3楽章) 2/4拍子(第4楽章) 6/8拍子(第5楽章) |
難易度 | 9(上級) |
- 2025年5月24日、記事内容を更新