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ベートーヴェン「悲愴」「月光」「熱情」三大ピアノソナタの難易度・解説

ベートーヴェン ピアノソナタ top_000

ベートーヴェン 三大ピアノソナタ一覧

ベートーヴェンが作曲したピアノソナタは全32曲存在します。
その中でも第8番「悲愴」、第14番「月光」、第23番「熱情」はとりわけ優れた作品として高く評価され、三大ピアノソナタとして知られています。
作曲年は不明瞭な部分があるものの、「悲愴」が1798~1799年、「月光」が1801年「熱情」が1804年とされており、ベートヴェンが27歳以降の作品であることが推測されます。
これらのピアノソナタはタイトルが示す通りの感情表現や情景描写が描かれており、ベートーヴェンらしい激烈で荘厳な世界感が見事に表現されています。

ベートーヴェンと言えば、有名な「運命」を作曲した人物という先入観と、音楽室で目にする厳めしい顔つきの肖像画の印象から、迫力があり激情的な曲を書く作曲家と誤解を受けがちですが、「月光」の第1楽章に見られる幻想感溢れる静寂の音楽や、「悲愴」の第2楽章のような温もりと幸福感に溢れた楽曲も存在します。三大ピアノソナタは楽章ごとに変わる曲の表情が印象的で「静」「動」の対比により見事なコントラストを生み出しています。



曲名 調性 作品番号 難易度
ピアノソナタ 第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13 7(上級)
ピアノソナタ 第14番「月光」 嬰ハ短調 Op.27-2 7(上級)
ピアノソナタ 第23番「熱情」 ヘ短調 Op.57 9(上級)

※1:難易度は「G.Henle」の評価を参考にしています。
※2:上表の調性は、第1楽章の調性を記載しています。

ベートーヴェン 三大ピアノソナタの難易度・解説

ベートーヴェンの三大ピアノソナタの難易度はすべて上級に分類され、
「悲愴」「月光」が「7(上級)」、「熱情」が「9(上級)」のランクに属しています。
各曲、複数楽章の構成となっていますが、取り分け第3楽章の難易度が高く、
急速なアルペジオ奏法、フォルティッシモによる力強さ、完走のための持久力など、総合的に高水準の技術が求められます。

これらの難易度は第1楽章~第3楽章まで完奏する前提の難易度を示していますが
人気曲の「月光」の第1楽章や、「悲愴」の第2楽章など、単独の楽章として難易度付けするならば、これらの曲は中級ランクに分類されます。



ピアノソナタ 第8番 Op.13「悲愴」

第1楽章は暗く重々しい序奏で始まり、迫力のあるこの序奏は展開部とコーダの直前に度々姿を現し、曲の緊迫感を高めます。主題は疾走する競走馬のように快活でありながらどこか幻想的な雰囲気を醸し出します。
そして、第1楽章と対照的な曲想の第2楽章、感傷的で夢のような旋律は、心を浄化し昇天するような浮遊感をもたらします。途中やや緊張感と不安を煽る楽想を経て、再び甘美な主題を奏でます。
第3楽章はアレグロのテンポで進行する軽快な主題が印象的、この主題は数度繰り返され、徐々に妖艶さが増していきます。4度反復を経て、最後は奥底に秘めたエネルギーを爆発させるように強烈なアルペジオの下降で曲を閉じます。

調性 ハ短調(第1楽章)
変イ長調(第2楽章)
ハ短調(第3楽章)
拍子 4/4拍子(第1楽章)
2/4拍子(第2楽章)
2/2拍子(第3楽章)
目安演奏時間 8:00~9:00(第1楽章)
4:40~5:50(第2楽章)
4:20~5:10(第3楽章)
難易度 7(上級)

ピアノソナタ 第14番 Op.27-2「月光」

第1楽章に映し出される情景がまさに「月光」というタイトルに相応しい。
静寂の中に響く詩的で幻想的な旋律は3連音符で絶え間なく続きます。中間部で高音部の旋律を往復し、再び鳴り響く主題はゆっくりと沈み込むように消えてゆきます。
第2楽章は軽快で安息の時を与えるような穏やかさ、個性が強い第1楽章と第3楽章の対比から、リストはこの楽章を「2つの深遠の間に咲く花」と形容しています。
そして終曲の第3楽章はこの月光ソナタの中核を担う重要な楽章となっています。荒々しく吹き荒れる嵐のような曲想、反復される主題の間に緊迫した感情を挟み、最後は激烈なコーダで曲を締めくくります。この曲はベートーヴェンが身分の違いにより結婚を断念した、恋人ジュリエッタ・グイチャルディに捧げられています。

調性 嬰ハ短調(第1楽章)
変ニ長調(第2楽章)
嬰ハ短調(第3楽章)
拍子 2/2拍子(第1楽章)
3/4拍子(第2楽章)
4/4拍子(第3楽章)
目安演奏時間 5:00~7:00(第1楽章)
2:00~2:40(第2楽章)
5:40~7:10(第3楽章)
難易度 7(上級)

ピアノソナタ 第23番 Op.57「熱情」

第1楽章は不気味な雰囲気の物々しい第1主題と、おおらかで希望的な第2主題が展開されます。
曲は高い緊張感の中、徐々に高揚感が増しドラマティックな盛り上がりを見せます。激しく鳴り響く音型の中には交響曲「運命」の第1楽章の楽節が引用されています。
第2楽章は、一旦落ち着きを見せ、美しく抒情的なメロディで変奏曲として数度繰り返されます。曲はテンポを上げながら煌びやかなアルペジオが加わり、後に沈み込むようなまどろみに誘われますが、突然切り裂くような激情の和音と共に第3楽章に移ります。
第3楽章は、押し込めていた感情を一気に解放するような、和音連打による序奏、苦悩を抱え迷走するような不気味な旋律が繰り返され、最後は激流に巻き込まれるようなアルペジオと共に壮大なクライマックスでフィナーレを迎えます。
この「熱情」という表題はベートーヴェン自身が付けたものではなく、ハンブルクの出版商クランツがつけたものと記録が残っています。

調性 ヘ短調(第1楽章)
変ニ長調(第2楽章)
ヘ短調(第3楽章)
拍子 12/8拍子(第1楽章)
2/4拍子(第2楽章)
2/4拍子(第3楽章)
目安演奏時間 9:10~11:50(第1楽章)
5:30~6:50(第2楽章)
5:00~8:30(第3楽章)
難易度 9(上級)
  • 2024年9月3日、記事内容を更新